茨城県近代美術館『国吉康雄展~安眠を妨げる夢~福武コレクション・岡山県立美術館のコレクションを中心に』へ行ってきました

 国吉康雄、明治生まれで生涯のほとんどをアメリカで過ごした日本人画家。日本ではあまり知られていないかもしれません。私がこの画家を知ったのは岡山県立美術館で《カーテンを引く子供》を観た時です。丸っこい子供がカーテンを掴んでいる様子がかわいらしいなぁと思ったのと同時に、子供の視線が気になりました。何処を(何を)見ているのだろう、と。目はかわいらしいというよりも鋭さがあって強く印象に残っていました。そのあと国吉作品を観た記憶があまりありません。国吉康雄が実際どんな活動をしてどんな人生を送ったのかを知るために国吉康雄展へ行ってきた結果、作品の面白さもさることながら、国吉の人生はこの時代の世界の情勢と大きく関わっていることにとても興味がわきました。

 

 みなさんは、この作品を観てどんな感想をお持ちになるでしょうか。展覧会場入口の一番はじめに展示してあります。

《安眠を妨げる夢》

 キャプションの最後にこう書かれていました。「まずは自由に感じ、それを楽しみながら、この会場で他の作品と見比べ、さまざまな背景を確認して、推論を立ててみてください。」

 《安眠を妨げる夢》(1948年)です。このタイトルからしてただサーカスをしているだけの絵ではないとわかります。安眠を妨げるというところに不穏な予感がしますね。淡い色が使われていて一瞬楽しいサーカスが描かれていると思ってしまいそうですが、終戦から3年後の作品と考えるとあまり明るい内容ではないのかもしれません。左の人物が右の人物を助けようとして助けられなかった、私はそんな悲しみを感じたのでした。

 国吉の渡米のきっかけは日露戦争が始まったことです。徴兵されるか移民として渡米するかの選択で、両親は渡米させることを選びます。ロシアとの戦争で多くの若者が戦死していることを聞き、17歳の一人息子を戦死させたくないという父宇吉の決断でした。当時としては非常に勇気のいる決断だったと思います。愛情の深さを感じました。

 第二次世界大戦中、アメリカに住む敵国民として辛い思いもしたでしょう。国吉の言動は、母国を裏切ったとかアメリカに媚びたとか受け取られることもあったようです。この展覧会で私が彼の作品や言動を知っていくにつれ、裏切りとか媚びるとかそういうことではなく、どこの国で生まれようとどこに住んでいようと彼は一人の表現者としてただ自分の思ったことや感じたことをその言動に表現しただけです。だからなのでしょうか、戦時中でもアート界では国吉を擁護する関係者が多かったようです。評論家からの評価も高く、アメリカの現存画家として展覧会などで何度も取り上げられています。国吉自身も卒業しているアート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨークは絵を学ぶ学生が自分たちで講師を選ぶなど学生が主体となって運営していく学校で、国吉はそこで20年間講師を勤めました。人望と指導力があったのですね。

 

予想以上に奥が深かった国吉康雄の世界、もっと日本でフォーカスされるようになってほしいと思いました。 

茨城県近代美術館

茨城県近代美術館『国吉康雄展~安眠を妨げる夢~福武コレクション・岡山県立美術館のコレクションを中心に』

2023年10月24日(火)~12月24日(日)(休館日:月曜日)

美術

Posted by mocchi