太田記念美術館『深掘り!浮世絵の見方』へ行ってきました

 浮世絵版画は日本が誇る技術だと思います。版元、絵師、彫師、摺師の連携プレーでの大仕事です。それぞれの素晴らしく高度な技が遺憾なく発揮された結果、世界中でムーブメントが起きたのでしょう。『深掘り!浮世絵の見方』では、その連携プレーの素晴らしさや、ちょっとやらかしてしまっているところも観ることができます。サイトにもあった通り、マニアも初心者も大満足できる展覧会です。

 この展覧会は7つの章で構成されています。第1章:グレート・ウェーブ、北斎の神奈川沖浪裏をベロ藍とともに深掘り。第2章:浮世絵版画のつくり方、画稿や版下絵を紹介。第3章:浮世絵の線、彫師の神業の紹介。第4章:摺りの違い、同じ版木を使っての別バージョンを紹介。第5章:浮世絵の端、摺師によるバレンの使い方の違いや、修復した箇所が観られる。第6章:浮世絵の文字、検閲の名残や版元印などについて。第7章:江戸の暮らし、花火大会や相撲、魚売りなどの江戸っ子の暮らしがわかる。それぞれのコーナーでいちいち「おお!なるほど‼」と(心の中で)感嘆していました。

 どの章もとても興味深い内容です。第1章で紹介されていたベロ藍について。「ベロ藍」とは、18世紀初めにドイツのベルリンで発見された絵具のことで、「ベルリン藍」略して「ベロ藍」。キャプションに「ベロ藍の美しさを広めたのは北斎、より効果的に用いたのは広重」とありました。富嶽三十六景を刊行したねらいの一つにベロ藍の美しさを前面に押し出すことがあったそうです。まさに狙い通りでしたね。北斎の作品を例にベロ藍が使われ始める前の青とベロ藍とが比較さているのを観れば一目瞭然です。そして広重の作品でその美しさをさらに高めたことがこのコーナーでよく理解でます。

 第6章で紹介されている文字の意味にも面白いものがありました。例えば「シタ売り」。私は今回初めて知ったのですが、作品を店頭には飾らず目立たないようにして販売したもののことだそうです。天保の改革で役者絵の刊行が禁止されてからも版元や絵師は人々の要望に応えるためにあの手この手を使っていたのです。天保の改革対策として絵師も予防線を張っています。「梓元乃応需豊国画」、これを現代語で言うと「出版社(版元)から依頼されて(要望に応じて)私(豊国)が描きました」となります。自分の意志で描いたというよりも依頼されたから描いたのですよ、ですから責任は出版社にあります、という自己防衛の意味なのですって。版元も絵師もしたたかに力強く生きていたのですね。ちなみに謙遜の意味もあったそうです。

 

 ちょっとやらかしているところというのも面白くて、三枚続のカットする部分がズレてしまっていたり、背景の色が同じはずが全然違う色にされていたり、ちょっとしたこういったところも見どころの一つです。

太田記念美術館

太田記念美術館『深掘り!浮世絵の見方』

会期:2023年12月1日(金)~12月24日(日)(休館日:月曜日)

美術

Posted by mocchi