アーティゾン美術館『ブランクーシ 本質を象る』へ行ってきました

 ブランクーシと聞いて私が一番に思い浮かべたのが「関税裁判」でした。《空間の鳥》がパリからニューヨークへ輸送される際に、鳥に見えないことから美術品ではなく実用品として40%の関税が課されたという事件です。確かに鳥と言われても戸惑うでしょう。美術に興味があってブランクーシを知っている側としては、この裁判が作家の勝利で決着したことには少しホッとします。今でこそ笑い話のように語られていますが、アートか実用品かとなると両者は全く意味が違うのですから大問題ですよね。

 展覧会は、ブランクーシのアトリエのように基本色は白でした。展示室には静謐な空気が流れていて、ブランクーシのポートレートを観た時の印象とは違った雰囲気でした。実は、偏屈おやじのイメージだったのです。ところが作品からは繊細さも感じられるし、偏屈で嫌われ者ではなく、とくに前衛芸術のアーティストたちと広く交友していたそうです。見た目で判断してしまったこと、申し訳ない。

 『本質を象る』というタイトルがついています。横たわっている頭部も、鳥も、トルソも、ブランクーシにかかると原型がわからないほど周りをそぎ落とした姿がその事物の本質、究極の姿、真の姿ということなのでしょう。

 ブランクーシ自身の撮影による写真も多く展示されています。彫刻や絵画の実物だけでなく、アトリエにあるその作品の素の姿を写真によって観ることができます。それは、美術館で私たちの目に触れるための姿とは別の一面を垣間見ることができた感じがしたのでした。

 今まで度々ブランクーシ作品は観ていますが、ブランクーシの展覧会が開催されたのは、日本の美術館では初なのですね。穏やかな中にダイナミックさも秘めているそんなブランクーシ作品を一気見できる貴重な機会でした。

アーティゾン美術館『ブランクーシ 本質を象る』

会期:2024年3月30日(土)~7月7日(日)(休館日:月曜日)

美術

Posted by mocchi